『数学ビギナーズマニュアル』の第 2 版の読書メモです。

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第 1 章 数学における記号

  • 数学記号の一覧とスタイルガイド (命名規則や記号のスコープ) の話。プログラミングと一緒だなって思ってたら、最後に「特に,コンピュータプログラミングでは,記号 (変数) の有効範囲を自覚しておかないと,困る場面が頻繁に起こります」という記述があった。
  • §6 の代数学における記号の歴史の話がとても面白かった。代数学という名前だし未知数に文字を使うというのは当たり前に思えるけど、そこに至るまでには色々な歴史があったという話。幾何学の用語を使って自然言語で方程式の抽象的な解法が示されていたというのは興味深い。

第 2 章 数学における特殊な言い回し

  • 一般用語とは異なる数学の言い回しの紹介。例えば「適当な」とか「天下り的に」とか。
  • 「高々」とか「ユニーク」はプログラミングでもよく使うし iff (if and only if) や well-defined もコメントや仕様で使われているので意外と馴染みがあった。
  • 「自明」に対する心構えがとても良い。「自明とは定義からただちに導き出される性質や証明済みの定理からの直接の帰結であり、自明とされた性質が何から導出されたのかピンとこないなら勉強不足であって、自明だからと鵜呑みにするような態度はやめよう」といった趣旨のことが述べられている。

第 3 章 「明らか」は本当に「明らか」か?

  • 第 2 章で取り上げた「自明」をさらに掘り下げて解説した章。自分では「明らか」を用いないことが重要。ですよね。
  • 数学者が「明らか」と書いた場合、想定読者のレベルや著者の思惑 (e.g., 書くのが面倒) や本当に明らかであるなどいくつかの意味合いがある。明らかに見えるが実は明らかではない場合もあるので注意がいる。そのようなケースで数学的な新たな発展 (概念の精緻化) が起こってきたらしい。

第 4 章 数学の体系的記述

  • 公理・定義・定理・命題・補題・系の意味と使い分けについて、公理から始める理論構成法の歴史、公理系による様々な体系 (モデル) の抽象化、集合を基礎とした公理系による構造化、など。

“すなわち,公理を出発点としてその論理的帰結を系統的に導いていく公理論的数学というものは,その公理系を満たすあらゆる体系に共通の性質を展開したものだという理解に導いたのです.20 世紀に入り発展した抽象代数学・位相数学は,この公理観に基づいています.” (p.99)

  • めっちゃ良い章だった。数学の見方が変わった。数学上の様々な体系は集合を基礎とする公理系で構造化でき、集合やその元の相互関係が重要であって各集合の意味は問題ではないというのが特に腹落ちした。たとえば幾何学における点・直線・平面が何を意味するのかは重要ではないらしい。

第 5 章 式も文章

  • 数式におけるピリオドの役割、文章としての数式、証明における記号の説明の必要性、= の多様な意味合い、など。
  • 数式や証明も通常の文章と同じで可読性が重要。

第 6 章 集合を元とみなす

  • 同値類、商集合、剰余類、集合の濃度、実数の定義 (基本列の同値類としての実数、切断による実数)、可換環、イデアル、などの紹介。そしてこれらを通じて「集合を元とみなす」アイディアの紹介。
  • 本章は今の私には難しくて実数の定義辺りから置いてかれた感。

第 7 章 数学はいかなる意味で役にたつのか?

  • 他分野での数学利用による数学の発展、応用を目的としない純粋数学が予期せず応用されるようになった例、未知の可能性に備える数学、など。

“数学は,直接の応用から自らを切り離すことによって,かえって,現時点で自然について知り得る限界を超えて,将来知ることになる自然の秘密を (それとは知らずに) 先取りすることができたのです.” (p.149)

第 8 章 うんと背伸びして勉強しよう

  • 数学を勉強する上で大事な心構えの話。分かることと分からないことを区別した上で、わからなさを抱えたまま前に進むことの重要性。
  • 一例として挙げられている ε-δ 論法のイメージの話がとても腹に落ちた。