『数学好きの人のためのブックガイド』を読みました。本書は数学セミナーの増刊として刊行されており、過去の数学セミナーの記事や新たに書き下ろされた記事で構成されています。

表紙

読んだ動機

本ブログでたびたび言っていますが 2020 年は数学を頑張ることを目標にしており、それに向けて数学書に対する土地勘のようなものを身に付けたくて本書を読みました。

構成と雑感

本書は主に 3 つの章に分かれており、章毎のテーマに沿って複数の著者 (数学者) による複数の記事で構成されています。

第 1 章「大学生に薦める数学の教科書」

第 1 章では大学生に向けて教科書を紹介する記事で構成されています。特に大学数学の入口である微分積分学と線形代数学の教科書が古典的なものから比較的新しめのものまで紹介されています。微分積分学や線型代数学の書籍は本屋でも特に多く陳列されており、どの本がどういった位置づけのものなのか俯瞰するのはなかなか難しいと思います。私自身、理工学部出身とはいえ数学は初歩的なところまでしか学んでおらず、授業の教科書も大学独自のものだったため、どれが古典的な教科書なのか全く知りませんでした。本章では様々な数学者が古典的な教科書について繰り返し取り上げているため、その辺りの土地勘を得ることができました。また、大学 1, 2 年次の微分積分学や線型代数学から更に進んだ先にはどういった分野があってどういった教科書があるのか、また工学や情報科学といった応用的な分野へ移る際の教科書なども紹介されていてとても参考になりました。

教科書の紹介に加え、紹介者がその本にどのように巡り会いどのように読み解いたのかその体験談も語られており、そちらも面白かったです。

スジ (論理) は追えても一体何を学んでいるのかわからなくなることもしばしば.反動なのか「直感的な理解」を求めるようになり物理学の教科書を眺め始めました。

― 私を育てた教科書たち (p.21)

論理が追えるというだけでは「理解した」という実感につながりません.『複素解析と流体力学』の紹介でも触れたように「直感的な理解」が必要な人にとっては「直感」と「論理」の間をどう行き来するかが大事な過程です。

― 私を育てた教科書たち (p.21)

第 2 章「教科書だけじゃない!数学の本」

第 2 章では教科書以外の数学書、具体的には数学史・数理パズル・数学を題材にした文学作品・数学雑誌・歴史的な数学書が紹介されています。この中でも特に日本における数学・科学雑誌の出版史と、江戸時代の数学書である『塵劫記』の話が面白かったです。

あと、数学の一般向け啓蒙書の抱える問題として、一般の人に分かりやすく説明するために具体物を持ち込むことで数学の持つ抽象性が失われてしまうという話はとても興味深かったです。

数学者やサイエンスライターが抽象的な概念や式の奥に潜む生き生きとした何かを紹介しようとすると,どうしても抽象度を下げて,具体物を持ち込むことになる.つまり,抽象性こそが本質であるはずの分野を具体的に語ろうとするわけだが,数学に具体物を持ち込めば,当然抽象性に由来する強みや明晰さは失われる.いってみれば,数学の一般向け啓蒙書という言葉自体が形容矛盾なのだ.したがって,数学の一般向け啓蒙書は絶えず批判にさらされることになる.

― 数学と数学者の世界 (p.59 - 60)

第 3 章「名著・大著を読む」

第 3 章では名著や大著と呼ばれる本を歴史的な背景を含めて深く掘り下げて紹介しています。本章の内容は私には特に難しく大部分は読み飛ばしてしまいました。いつか「なるほどー!」と思いながら読める日が来るんだろうか・・・

おわりに

紹介者の体験とともに数学書が語られており、細部は分からずともとても楽しめました。気になった本を欲しい物リストに突っ込んでいったら長大なリストになりました。在庫切れのものが多いのがちょっと残念ですが、手に入るものから少しずつ読んでみようと思っています。