『核融合エネルギーのきほん』を読んだ
『核融合エネルギーのきほん』の読書メモです。
読んだ動機・感想
- 天文学が好きで恒星内部の核融合反応について学んでいる中で、それを人工的に実現する核融合炉の仕組みに興味が湧き、たまたま見かけた本書を読みました。
- 核融合反応の仕組みから、それを検証・実現する実験炉の仕組み、そして社会における核融合エネルギーの意義など、多様な視点から核融合エネルギーについて紹介していて、とても勉強になりました。説明も平易なため、最初の一冊にぴったりだと思います (私はこの一冊しか読んでいないので類書と比較できませんが・・・)
- 謝辞によると、核融合分野に関わる文部科学省・大学・研究機関が協力してアウトリーチ活動を行っており、その一環として本書が書かれたそうです。
読書メモ
第 1 章 核融合エネルギーとはなにか?
- 人類のエネルギー利用の歴史、燃焼の仕組み、エネルギー源としての水素、核融合反応の仕組み、恒星における核融合反応、超新星爆発と星の輪廻転生、核融合反応と他のエネルギー源との比較、など。
第 2 章 核融合エネルギー実現のために必要なこと
- プラズマの閉じ込め方、核融合炉の方式 (トカマク・ヘリカル・レーザーなど) と実際の実験装置、熱の取り出し方と電気への変換方法、核融合に耐える材料、三重水素の再生成、プラズマの計測・制御、炉のメンテナンス、など。
- トカマク型がトーラス状コイルの周りのねじれた磁力線の中にプラズマを閉じ込めるというのは聞きかじってたけど、そのねじりは二種類の電流(コイル電流とプラズマ電流)による磁場(トロイダル磁場とポロイダル磁場)を合成することで作るのか。一方、ヘリカル型はコイル自体をねじっている。
- 重水素と三重水素の核融合反応 (D-T 反応) によりアルファ粒子と中性子が発生する。ブランケットと呼ばれる内壁で中性子の遮蔽・熱エネルギーの取り出し・三重水素の取り出しが行われ、アルファ粒子は磁場に沿って核融合炉下部のダイバータ板に集められてそこで熱エネルギーが取り出される。
- 飛び出した中性子をリチウムに当てると三重水素が生成される。反応を継続するには核融合に使用した三重水素よりも多くの三重水素を生成する必要があり、ブランケットを工夫することで中性子数を増やして三重水素をさらに生成するらしい。
- D-T 反応で生成されたヘリウムはダイバータ板を経由して排気して取り出す。これには重水素や三重水素も混ざっているので、それは燃料として再投入される。燃料をうまく再循環させる仕組みが作られていて面白いな。
第 3 章 核融合エネルギーの安全と環境問題
- エネルギー政策における核融合炉の位置づけ、実用化に向けた開発計画、核融合の安全性、廃棄物の種類とその最小化、核融合に使う資源とその埋蔵量、核融合の燃料サイクル、など。
第 4 章 核融合エネルギーとビジネスについて
- エネルギー産業の歴史、スタートアップ企業による核融合の研究とビジネス、核融合技術開発の他分野への応用、など。
第 5 章 教育現場で核融合の理解を深める
- エネルギー政策に関する議論の注意点、次世代の研究者・技術者の育成について、国内で核融合を研究・開発している大学や研究機関の紹介、核融合を学び体験できる施設やイベント、自己点火条件の式、など。
第 6 章 核融合エネルギーが実現化するとどのような世の中になるのか
- 核融合による宇宙ロケットの開発とそれによる惑星間・恒星間旅行の期間短縮、など。