読書|見えない絶景 ― 深海底巨大地形
『見えない絶景 ― 深海底巨大地形』の読書メモです。日経サイエンス 2020 年 8 月号のブックレビューで紹介されているのを見て買いました。自分自身の興味もさることながら、長男が火山や深海にすごく興味があるので子どもに教えられる知識を蓄えていきたいという気持ちで読みました。
世界各地の深海巨大地形の紹介から始まり、それがどのように作られたのか、今後どうなっていくのかが、筆者の海洋探査のエピソードと共に軽快な口調で語られます。果ては海を飛び出し、地球の誕生やこの宇宙の成り立ちにまで話が広がります。読んでいてワクワクする本でした。
深海底は宇宙につながっています ― p.244
読書メモ
第 1 章 深海底世界一周
- 本章では仮想的な潜水調査船「ヴァーチャル・ブルー」に乗り込み、日本から東廻りに世界一周コースを辿りつつ、途中の深海底地形や陸上火山の紹介をする、というストーリーになっている。
- 日本海溝ってめっちゃ深いんだね。最も深いところで 8000 メートルくらいある。陸側斜面には地震による地滑りの痕跡がたくさん残っているらしい。地滑りの影響で埋められてしまったのか、大きな海底谷があまりないらしい。
- 地球表層の高度・水深の割合を示したヒプソグラフが面白い。陸上では標高 0-1000m、水中では水深 4000-5000m にピークを持ったバイモーダルな分布をしていて、これが地球を特徴づけているらしい。他の惑星ではユニモーダルだったりマルチモーダルだったりするとのこと。
- 地球の構造とプルームテクトニクスを示した図 1-10 が分かりやすい。地殻と上部マントルを合わせてプレートと呼び、通常のプルームは上部マントルと下部マントルの境界までしか上がってこない。これに対しスーパープルームになるとプレートを突き破って噴出し、それが火山を形成する。
- プレートの運動によって地殻と上部マントルは移動するが、ホットスポットを形成する下部マントルは動かないため、結果としてプレート上のマグマの吹出口が移動し、ハワイ-天皇海山列のような地形を構成する。活動を終えた火山は沈降していくらしいので、現在のハワイ諸島もいずれ沈むのかな・・・。
- キラウェア火山の溶岩流見てみたかった。もう止まってるらしい
- 「プルーム」って「煙」って意味だったのか。そして「天皇海山列」って日本人が付けた名前じゃなかったのか。
- 東太平洋海膨には熱水噴出孔があり、そこでは多様な生物が独特な生態系を構築している。一方で激しい火山活動によって生き物たちが焼かれて滅亡することもある。こういう場所を「バーベキューサイト」と呼ぶらしい。なかなかパンチの効いた名前だな。
- チリ周辺で大きな地震が多いのは、プレートがせり出してくる東太平洋海膨とプレートが沈み込んでいくチリ海溝の距離が短いからなのか。プレートが十分に冷え切らず軽いため浅い角度で沈み込み、プレート間の摩擦が大きくなるらしい。
- 大西洋中央海嶺から大量のマグマが噴き上がったことで超大陸パンゲアが引き裂かれて大西洋が生まれたのか。パンゲアができた頃は海嶺辺りのプルームの活動が比較的穏やかだったってことなんだろうけど、何で活発化したんだろう?
- この本の著者は三太洋 (太平洋・大西洋・インド洋) の全てに潜航した最初の人間らしく、特にインド洋は著者らの研究チームが世界初の潜航調査をしたらしい。日本が深海探査に力を入れてるのは知ってたけど、そんなレベルとは知らなかった。
- 重力計というものがあるのか。いや、普通に考えればあって然るべきなんだけど、地球における重力の測定とは何らかの物質の質量を測るのとセットで考えていたので、地球自体の重力場を測定するという視点がなかった。深海探査においては海底を構成する岩石の密度測定に使うらしい。周囲の岩石に比べて密度が高い場合、それは地球内部で圧縮されて重たくなったマントルの可能性がある。
重力異常から、地下構造の起伏を知ることができ、地下に高密度の岩石があると、重力値は標準重力値よりも大きくなり、低密度の岩石がある場合は小さくなる。これらから重力値を測定して、地下構造を推定することができる。
- 自分は天文学・宇宙物理学における重力異常のイメージが強かった。
測地学・地球物理学の分野と、天文学・宇宙物理学の分野の双方で、上記の意味で同じ用語が使われているが、対象が異なるため概念も異なる。
第 2 章 深海巨大地形の謎に挑む
- 深海の地形が巨大化する理由、海溝が太平洋に多い理由、トランスフォーム断層や海台などができる仕組み、など。
- トランスフォーム断層ができるのは地球の自転速度が緯度によって異なるため、プレートに歪みが生じるからなのか。ゆえに南北に伸びた海嶺に対して、トランスフォーム断層はそれを横切る自転方向に走る。
- マグネシウムのことを苦土 (くど) と呼ぶらしい。苦い味に由来する。そういえば塩化マグネシウムのことも苦汁 (にがり) っていうね。
第 3 章 プレートテクトニクスのはじまり
- マグマオーシャン仮説、地球初期のプレートを構成する岩石の考察、ハワイの溶岩湖におけるプレートテクトニクスに類似した現象の研究、など。
- 溶岩湖の表面でもプレートに似た構造が形成され、海嶺・海溝・トランスフォーム断層に似た現象が見られるらしい。
第 4 章 冥王代の物語
- 宇宙の誕生から地球の冥王代における主要イベントを紹介した章。元素の誕生、鉱物と岩石の生成、地球の誕生 (マグマオーシャン・空と海の始まり・プレートテクトニクスの開始・陸の生成)、月の誕生とジャイアントインパクト、隕石重爆撃、など。
- 地球の終焉といえば赤色巨星になった太陽に飲み込まれるイメージだったけど、それよりだいぶ前に地球内部が冷えてプレートテクトニクスが終わり、海が消滅するから人間が住めなくなるのか。海が干上がって深海の巨大地形が露わになった地球を見てみたい気もするけど、住めなくなるのは嫌だね。
終章 深海底と宇宙
- 深海に巨大地形ができる仕組みのまとめ、斉一説と天変地異説、地球科学の新しいパラダイムの話。