読書|2 つの粒子で世界がわかる ― 量子力学から見た物質と力
『2 つの粒子で世界がわかる ― 量子力学から見た物質と力』の読書メモです。
本書はこの世界を構成するボース粒子とフェルミ粒子についての本です。身近なものだと光子はボース粒子、電子や中性子はフェルミ粒子に分類されます。原子説や粒子と波の二重性に関する研究史から始まり、ボース粒子とフェルミ粒子の見分け方と基本的な性質、量子力学の研究史、ボース粒子の超流動とフェルミ粒子の超伝導、などが直感的に分かるように説明されています。めっちゃ勉強になりました。おすすめ。
読書メモ
- 同種粒子 2 つに関する波動関数 \(f(x1, x2)\) の確率振幅を \([f(x1, x2)]^2\) とする。このとき \(x1\) と \(x2\) を入れ替えた \([f(x2, x1)]^2\) は元の確率振幅と一致する。この 2 乗を外したときの符号変化の有無で粒子を二種類に分類できる。符号が変わる場合がフェルミ粒子、変わらない場合がボース粒子。
- これは複数の粒子が組み合わされた場合へ拡張できて、たとえば偶数個のフェルミ粒子でできた複合粒子 1 対を構成粒子毎に入れ替えると偶数回の符号変化となり、全体では符号変化がキャンセルされてボース粒子になる。同様に奇数個のフェルミ粒子でできた複合粒子の場合は符号変化が残るためフェルミ粒子になる。
- ボース粒子の場合はいくら集めても符号変化が起きないのでボース粒子のまま。フェルミ粒子の数が重要になる。おもしろいな。
- この「\(x1\) と \(x2\) の位置を入れ替える」という操作がどういう意味を持つのかがこの時点での疑問。
- \(x1=x2\) のとき確率振幅の二乗を外すと \(f(x,x)=±f(x,x)\) となる。ボース粒子の場合はトートロジーになるだけで問題ないが、フェルミ粒子の場合は符号反転するため結果として \(f(x,x)=0\) となり、存在確率が 0 となる。つまり同種のフェルミ粒子は同じ位置に存在できない。
- ここで、\(x\) は位置に限らず一般的な状態として記述することができて、これはフェルミ粒子同士は同じ状態を取ることができないというパウリの排他律になる。パウリの排他律がボース粒子に当てはまらないこともこれで分かる。なるほどー!
- 大学生のとき授業で「同じ状態を取れない」とか「スピンが・・・」みたいな話を聞いたけどよく分からなかったんだよな (授業をちゃんと聞いてなかっただけという可能性もある)。
- 「\(x1\) と \(x2\) の位置を入れ替える」の意味についてはだいぶ分かってきたけど、今度は符号反転が何を意味していてどう決まるのかが分からない。
- 多数のボース粒子が同じ状態にあることをボース・アインシュタイン凝縮と呼ぶ。
- スピンの話が出てきた。ボース粒子は整数の大きさのスピンを持ち、フェルミ粒子は半整数の大きさのスピンを持つ。
- 複合粒子がフェルミ粒子になるかボース粒子になるかはフェルミ粒子の個数で決まるわけだけど、これはスピンの総量が整数になるかどうかって考え方をしても良いのかな? (スピンの大きさというものが足し合わせられる類の物理量なのかが分からない) → そうじゃないみたい (下記参照)
複合粒子のスピン量子数はそれ以外の値も取りうるが、単純に複合粒子を構成する素粒子のスピン量子数の合計値になるわけではない。例えばヘリウム原子のスピン量子数は 0 であるが、これを構成する素粒子である電子やクォークはいずれもフェルミオンであり、したがってそのスピン量子数は半整数である。 (スピン角運動量 - Wikipedia)
- へぇー、レーザーを使って原子を絶対零度近くまで冷却できるのか。直感的にはレーザーを当てると加熱されそうだけど、ドップラー効果を使って特定の波長だけ特定方向から作用させることで原子を減速させるらしい。面白いな。
- ヨビノリさんの動画が分かりやすかった → “レーザー冷却の原理(ドップラー冷却法)”
- さらに磁場をかけるとその強さに応じて吸収する光の波長が変わって、それをうまくコントロールすることで原子を空間中に閉じ込められる。これを磁気光学閉じ込めというらしい。これらを組み合わせて発展させることでボース・アインシュタイン凝縮の実験観測に成功した。1995 年らしい。わりと最近だ。
- ボース粒子が極低温になるとボース・アインシュタイン凝縮を起こして粘性がなくなり超流動を起こすようになる。一方、フェルミ粒子である電子も極低温になると電気抵抗がゼロの超伝導状態になる。電子が極低温になると電子対 (クーパー対) が構成され、これがボース粒子状になって凝縮し BCS 型のフェルミ超伝導 (超流動) が発生する。他のフェルミ粒子でも同様の現象が起こる。
- クーパー対に働く引力の強さでボース粒子っぽさ (?) が変化し、結合を強くしていくとやがて理想的なボース粒子になってボース・アインシュタイン凝縮 (BEC) へと転移する。この過程を BCS-BEC クロスオーバーというらしい。
- 日本物理学会誌の記事が参考になった → (PDF) フェルミ超流動とボース・アインシュタイン凝縮の統一描像 (日本物理学会誌 Vol. 71, No. 7, 2016)
- あー、なるほど。中性子星を構成する中性子はフェルミ粒子だけど、強い引力のおかげでクーパー対を形成していて、内部は超流動状態になっていると考えられているのか。自分の中で色々繋がった。