読書|トコトンやさしい宇宙ロケットの本
『トコトンやさしい宇宙ロケットの本』の第 3 版の読書メモです。
読んだ動機と感想
本屋でたまたま見かけて天文宇宙検定の宇宙ロケット分野の対策に役立ちそうだと思い読みました。扱っている話題が広く入門として全体像を把握するのに適していそうだったのと、内容を改訂した第 3 版が 2019 年 4 月に発行されたばかりで最新の話題まで含んでいそうだったのがポイントでした。
章毎にテーマが決められており、右側が解説・左側が図解の見開き 2 ページで一つの項目を説明する図解系書籍の構成になっています。一部難しい内容もありましたが全体的な雰囲気は掴むことができました。章末に宇宙ロケット開発の裏話的なコラムがあり、どれも面白かったです。特に月周回衛星「かぐや」にハイビジョンカメラを載せた話と、JAXA 命名の由来の話が良かったです。
そんな感じで全体像を把握するという目的は達成できました。天文宇宙検定の問題集を解いているだけだと断片的にしか知識が得られず理解が進まなかったのですが、本書を読んで体系的に知識を得られて満足しています。
読書メモ
第 1 章「宇宙ロケットのあゆみ」
- 中国で発明された原初のロケット、ツィオルコフスキーやゴダードらによるロケット理論の発展と液体燃料ロケットの開発、ドイツの V2 ロケット、米ソの宇宙開発競争、月面直陸、宇宙ステーション開発、日本のロケット開発の歴史と現在、など。
- 恥ずかしながら、イプシロンロケットと H3 ロケットについて「日本は二種類のロケットを開発している」くらいの認識しかなかったんだけど、使用する燃料の違いや部品の共通化によるシナジー効果など、戦略的に開発が行われているんだね。いやちょっと考えれば当たり前なんだけど。
- イプシロンロケットは “世界最高峰の固体燃料ロケット技術を継承することを目的として開発が始められたイプシロン” (p. 22) らしい。ロケットなんて頻繁に実験できるものじゃないし、技術者の育成と技術の継承は大変そう。
- 航空機やロケットに載った電子機器類を「アビオニクス (Avionics: AVIation electrONICS)」と呼ぶことを学んだ。
第 2 章「ロケットはなぜ飛ぶか」
- ロケットの推進原理 (運動量保存則)、ジェットエンジンとロケットエンジンの違い (酸化剤の有無)、イオンエンジン、質量比と比推力、ツィオルコフスキーの公式、質量比と比推力を考慮した速度の上げ方 (ノズルの設置、燃料の積載、多段式ロケット) など。
第 3 章「ロケットの推進剤」
- 推進剤によるエネルギー変換の仕組み、固体推進剤とグレイン (燃料・酸化剤・各種調整剤などを固めたもの)、グレイン形状、液体推進剤とタンクの仕組み (ガス押し式・ターボポンプ方式)、固体燃料と液体燃料の pros/cons、ハイブリッドロケット、など。
- グレイン形状の話が面白かった。柱状に固めたグレインを中心軸から燃やすと (これを内面燃焼型と呼ぶらしい)、燃焼が進むにつれて燃焼表面積が増え、圧力でケースが破裂する恐れがある。そこで内部の穴の形を星型などにして燃焼表面積を一定に保つ。グレイン形状と燃焼曲線のグラフが興味深い。
第 4 章「ロケット・エンジン」
- ノズルの役割、固体ロケットモーターの構造と仕組み、液体ロケットエンジンの構造と仕組み (推進剤の噴射機構、冷却、燃焼サイクル)、など。
- ロケットエンジンは液体推進剤のロケットに対する言葉で、固体推進剤の場合はロケットモーターというらしい。エンジンは熱エネルギーなどを使用し、モーターは電気エネルギーを使用するものという認識だったのでちょっと不思議。
- 液体ロケットエンジンの仕組みが想像以上に複雑だった。簡易的な図解を見てもちっとも分からん。固体ロケットモーターの方は何となく分かるんだけど。
第 5 章「ロケットの構造」
- ロケットの構造と材料に求められる性質、固体ロケットのノズルの仕組み、液体ロケットのタンク、など。
- 液体ロケットでは推進剤をエンジンの周りに循環させることで冷却できる (再生冷却)。固体ロケットだと手近に冷却材として使えるものがないので液体ロケットとは違った仕組みが必要になる。
- 液体ロケットタンクの話が面白かった。タンク内の液体推進剤が減ってくると自由表面が増えて液面が振動 (スロッシング) するので、バッフル板によって水面を覆うことでそれを防ぐらしい。まるで落し蓋みたい。
第 6 章「ロケットを正確に飛ばすには」
- ロケットの誘導制御機能 (航法・誘導・姿勢制御)、航法の分類 (慣性・電波・天測・GPS)、慣性航法を支えるジャイロセンサーの仕組み (こまあり・こまなし)、誘導方式、姿勢制御の仕組み、など。
- ジャイロの仕組みの解説が難しくてよく理解できず。
第 7 章「ロケットの打ち上げ」
- 日本や世界のロケット発射場の場所、発射場の緯度の違いが打ち上げに及ぼす影響、打ち上げ方向、多段式ロケットの分離が及ぼす影響と事故防止の取り組み、中国とインドのロケット開発、など。
第 8 章「惑星への旅」
- 人工衛星と惑星探査機の違い、ホーマン軌道と会合周期、第 1-3 宇宙速度、惑星までの軌道の計算方法、内惑星・外惑星それぞれに向けた打ち上げ方法、スウィングバイ、探査機や宇宙船の軟着陸と大気圏再突入、など。
第 9 章「宇宙往還の時代」
- スペースシャトルやソユーズによる往還、ISS への物資輸送、民間ロケットによる宇宙旅行の開発、はやぶさ・はやぶさ 2 による太陽系往還時代の幕開け、など。
第 10 章「これからの宇宙ロケット」
- 各国のロケット開発、未来のロケットの推進機構 (イオンエンジン、ソーラーセイル、パルスロケット、光子ロケット、レーザー推進、など)、高度に応じて吸い込み式エンジンとロケット推進を使い分けるスペースプレーン、宇宙エレベーター、など。