エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ― テックリードから CTO までマネジメントスキル向上ガイド』の読書メモです。

ちなみに原題は “The Manager’s Path: A Guide for Tech Leaders Navigating Growth and Change” です。本書で語られている「エンジニア」は主に「ソフトウェアエンジニア」を指しています。

読んだ動機

  • 一介のソフトウェアエンジニアとして、この先どういったキャリアパスがあり得るのか興味があった。
  • 「まえがき」を書かれた及川さんは元上司で、どのようなことを書かれているのか気になった。

読書メモと雑感

本書は、ジュニアソフトウェアエンジニアから始まり、メンターやテックリードを経て、エンジニアリングマネージャーや技術系経営幹部に至るまでのキャリアの各段階で求められる役割を定義し、それをこなすためのノウハウを余すことなく解説しています。

IT 業界はまだ歴史が浅いということもあり、キャリアラダーとその各段階で求められる役割 (ジョブディスクリプション) は一部の先進的な企業を除いてあまり明確に定義されていないのが現状だと思います。本書はそのキャリアラダーを登りつめた筆者の経験に基づいて書かれており、キャリアアップはしたけど何をしたらいいか悩んでいる人や、キャリアラダーの導入を検討している人など、多くの人に示唆を与える内容だと思います。

  • まえがき
    • 本書は米国で書かれた本の翻訳本ということで、話の前提としている雇用システムが日本型企業におけるそれとは違うので、その辺りをざっくり解説している。後続の章を自分の立場に引きつけて読み解く手助けになる。
    • ジョブディスクリプションとキャリアラダーの話は同意。自分はそれらががっちり定義された企業で働いているけど、自分の立ち位置を知り、次のレベルへの具体的な指針となるのでとても良いと感じてます。
  • 第 1 章「マネジメントの基本」
    • 部下の立場から見た 1-on-1 と管理のされ方の話。1-on-1 は上司と責任を分かち合って行うもの、自分の望みを考え抜いて明らかにする責任は自分にある、という話はその通りだと思いました。もちろん上司は頼るべき味方ではあるけど、自分のキャリアを決めるのは最終的には自分自身。
  • 第 2 章「メンタリング」
    • 新人に対するメンタリングについて、メンティーがインターンの場合と新入社員の場合に分けて紹介。
    • メンターはメンティーを育てるだけでなく、メンティーによって育てられるというのは今まさに実感してます。
    • 肉体労働・頭脳労働に並ぶ感情労働という労働形態があることを知った。コールセンターのオペレーターのように自身の感情を抑制することが職務の一環となるような労働のことを指すらしい。言い得て妙だなと思いつつ、そういった分類が感情的にあたることへの正当化に使われないか気になった。本書の中では「メンタリングは感情労働ではないよ」という文脈で紹介されている。
  • 第 3 章「テックリード」
    • テックリードの定義と役割、自分でやるかチームメンバーに任せるか、プロジェクト管理、技術職を貫くか管理職を選ぶか、優秀なテックリードの特質、など。
    • テックリードの業界共通の定義がない中、本章で紹介されている筆者らの定義はとても参考になった。シニアエンジニアや管理職の理想と現実の話は色々考えさせられる。
  • 第 4 章「人の管理」
    • シニアエンジニアやテックリードから一歩進んで人をマネージメントする立場になったときの話。部下との関係構築や 1-on-1 の進め方、マイクロマネージメント、委任と放任、情報の集め方と共有、継続的なフィードバック、勤務評価、など。
    • 今の自分の立場と照らし合わせると、前章までは自分が「する」立場の話が多かったけど、本章からは自分が「される」立場の話が多くなってきた。上の人達がどういうことを考えてるのか見えてきて面白い。
  • 第 5 章「チームの管理」
    • チーム全体の責任を負う管理者(エンジニアリングリード)の立場の話。技術スキルの維持、機能不全チームのデバッグ、チームの盾となるべきか?、データを重視したチームの意思決定文化の形成とその主導、心理的安全性の維持、技術ロードマップの管理、など。
    • 技術系の管理職は技術に対するスキルも求められるため、可能な限りスキルを磨き続ける機会を作るか、技術力が熟すまで経営系に舵を切らない選択肢もある、という話がなるほどと思いました。
    • 「ブリリアントジャーク症候群を回避する最良の策」のくだりが辛辣で思わず笑ってしまった😁
  • 第 6 章「複数チームの管理」
    • 複数チームを束ねる技術部長(エンジニアリングディレクター)の立場の話。タスク管理、チームの健全性の確認、既存チームに新たに加わった場合のチーム運営、など。
  • 第 7 章「複数の管理者の管理」
    • レポートラインが長くなり、配下のチームの幅も広がってくる中で、どのように管理を進めるべきか。会議のやり方や新任・ベテラン管理者の管理、組織の健康状態やロードマップの把握など。
    • 複数の管理者の管理は、基本的には前章「複数チームの管理」をよりハイレベルにしたものに見えました。
  • 第 8 章「経営幹部」
    • 技術系の経営幹部としての役割と振る舞い方、戦略の練り方、部下や他の経営幹部とのコミュニケーションの取り方、など。
    • CTO と VPoE の違いの説明が良かった。おかげでなんとなく理解できた気がする。将来もしこれらの役職に着く機会があれば読み直したい。
  • 第 9 章「文化の構築」
    • 構造改革のタイミング、文化の創生、キャリアラダーの作成、チーム構成、コードレビューやポストモーテムといった作業プロセスの導入、など。
    • 自分はこの辺りの文化が既に出来上がっている会社に入ったので違和感ないんだけど、ゼロから導入するとなると大変そう。
  • 第 10 章「まとめ」
    • 作者のあとがき。