『宇宙検閲官仮説 「裸の特異点」は隠されるか』を読みました。面白くて一気に読みました。

表紙

アインシュタイン方程式を解くことで、この宇宙には特異点と呼ばれる現代の物理学では扱うことのできない特殊な領域が存在しうることが知られている。計算上、特異点がブラックホールの内部に隠されて存在する場合と、ブラックホールに隠されずに存在する場合があり、ペンローズは後者を「裸の特異点」と呼んだ。特異点がブラックホールの内部に存在する場合、それが我々のいる外側の時空と因果関係を持つことはないため、この世界の物理法則に影響はない。一方、ブラックホールに隠されていない場合、我々の時空に影響を及ぼすため困ったことになる。そこでペンローズは「宇宙には検閲官のような仕組みがあり、すべての特異点はブラックホールによって覆い隠され、裸の特異点が出現するようなモデルは存在し得ないようになっている」とする宇宙検閲官仮説を提唱した。

本書は、ニュートン力学から一般相対性理論までの歴史的展開、アインシュタイン方程式の解から分かった宇宙とブラックホールの構造、特異点の定義と出現条件、といった前提となる知識を順番に紹介し、宇宙検閲官仮説がなぜ提唱されるに至ったのかを丁寧に説明しています。

本書を通して宇宙検閲官仮説について知ることができたのはもちろん、他にも「アインシュタイン方程式を解く」ことが何を意味するのかイメージできるようになったり、ブラックホールの構造についてより深く知れて良かったです。例えば、ブラックホールの「見かけの地平面(捕捉面)」と「事象の地平面」の違いがよく分かってなかったんですが、図3−7のおかげで理解できました。「見かけの地平面」は光円錐が外向きに広がらなくなる境界で、「事象の地平面」は光円錐がまだ外向きに広がるけどその光が無限遠方には届かなくなる境界らしい。ブラックホールは後者の「事象の地平面」から始まると定義されている。

目次
- 第1章 一般相対性理論とは
- 第2章 アインシュタイン方程式の解
- 第3章 特異点定理
- 第4章 宇宙検閲官仮説
- 第5章 特異点定理と宇宙検閲官仮説の副産物