Go-to person(頼りになる人)
何か相談事があるときに真っ先に話をしに行く相手のことを go-to person と呼ぶ。要するに「頼りになる人」のことである。本記事ではミドルレベルのソフトウェアエンジニアが go-to person として頼りにされるためにはどう振る舞えばよいか私見を紹介する。職種や立場が違えば目指すべき go-to person のあり方もまた違ったものになることはご留意ください。
Go-to person の役割
Go-to person は相談者が抱える課題を分解・整理するのを手伝い、自身の知識や経験に基づいた適切なアドバイスを提供する。相談者は go-to person と話すことで暗中模索する時間を節約し、最終的な判断に自信を持つことができる。シニアソフトウェアエンジニアやテックリードになる要件として、何らかの分野で go-to person として認知されていることを求めている場合も多いだろう。
Go-to person になるにはその人が「go-to person として十分な知識や経験を持つこと」そして「周囲から go-to person として認知されること」の2つが重要となる。
知識や経験を得る
ソフトウェアエンジニアとして頼りにされるには、もちろんソフトウェア開発に関する豊富な知識や経験が必要だ。ただし、雑然とした広範囲の知識よりも特定の領域を深掘りしている方が頼りにされやすいだろう。例えば以下のようなものが考えられる。
- プロダクトの実装や歴史的背景について詳しい。コードオーナーシップを持っている。
- 開発ツールやフレームワークに精通しており、実現したい機能に対して最適なものを提案できる。
- 既存の機能や仕様を熟知しており、その根拠として仕様書の該当部分を提示できる。
- ソフトウェア設計に関するノウハウを持っており、新規プロジェクトに対してアドバイスできる。
- ビルドインフラに詳しく、トラブルシューティングができる。
- アジャイルのような概念やスクラムといった開発プラクティスに精通している。
- 個人やチームを繋ぐコミュニケーションハブになっている。
以前書いた『チームにいると頼りになるソフトウェアエンジニア』も参考になるかもしれない。
いずれにせよここで大事なのは、自分がどの領域で専門性を発揮して周りに頼られたいのか自覚することだろう。そしてその領域を深掘りして徹底的に理解することを目指す。この研鑽が他者に提供できる価値を生み出す。与えられた仕事をこなすだけでは go-to person 足り得る知識や経験を得るのは難しい。自発的に学び広げることが重要になる。
既に自分の中で確立したい専門性があればそれを磨けば良いだろう。もしまだ特定の専門性がない場合は、開発に必要だがあまりメンテナンスされていないコンポーネントやツールを見つけ、それに習熟して積極的に貢献しよう。特に複数のチームやプロジェクトが関わるものが望ましい。問題が発生したら率先して調査し、機能追加の機会があれば積極的に手を挙げよう。次第に go-to person のような存在になれるだろう。
Go-to person として認知される
次にどのように go-to person として認知されるかであるが、これは技術力ではなく「自分を周りに印象付けていくセルフブランディング」や「自分の直接的な仕事を超えてどれだけチームや組織に貢献できるか」が重要になる。例えば、チャットやメールでの質問に真っ先に答えるようにしたり、コードやデザインドキュメントのレビューを積極的にすることで信頼を勝ち得ていく。他者の課題に自分事のように取り組み、乗りかかった船は最後までしっかり面倒を見よう。これについてはひげぽんさんが書かれた『常にそこにいろ』という素晴らしい連載記事があるのでぜひ読んでほしい(この連載の他の記事も面白いのでぜひ読んでほしい)
あなたは実際にテックリードのようなリーダーの役割かもしれないし、ただのエンジニアかもしれない。どちらの場合も心の中で自分がリーダーだと思おう。チームに来た問い合わせは率先して常に答えるようにしよう。できれば常に一番に答え続けて、チーム内外から「チームの顔」として認識されるようにするとよいだろう。そうすると自分の周りでコミュニケーションがうまく回っていく。
(引用元: 『常にそこにいろ』)
何か学んだら積極的に発信していく。情報は隠すのではなく共有する。仕事内容を他者に秘匿してジョブセキュリティを高めたほうが go-to person として重宝されそうだが、むしろ情報を積極的に共有することで「これはあの人に聞けばいい」という雰囲気を作り出すことが重要。調査メモやデザインドキュメントを書き、他の人に見てもらおう。ドキュメントにはちゃんと自分の名前を書いておこう。
Go-to person といえど、聞かれたことが分からないときもある。それは恥ずかしいことではないし、分からないことを取り繕う必要もない。分からないことを素直に認め、質問者と一緒に調べて考えよう。調べることで go-to person としての知識や経験が向上し、質問者は次もまた頼ってくれるだろう。
ボーナス:Go-to person として認知されると、設計レビューや新しいプロジェクトのアドバイザーとして召喚される機会が増え、シニア以上の要件であろう「自分のチームを超えて影響力を行使する」ことが自然とできるようになる。
チェック方法
go-to person として振る舞えているか確認するには自分を客観的に見つめる必要がある。もし周りに go-to person がいるなら、その人を次のテンプレートに当てはめて考えてみよう。
xxx について質問があるときは、yyy に聞きに行く。
例えば、ビルドインフラに詳しい A さんがいるとしたら、次のようになるだろう。
ビルドインフラについて質問があるときは、A さんに聞きに行く。
これを自分に当てはめてみるとどうなるだろう。
チームメイトが xxx について質問があるときは、私に聞きに来る。
ここで xxx に当てはまるものが思いつかない場合は、あなたはまだ go-to person になれていないかもしれない。
まとめ
本記事では go-to person について紹介した。Go-to person になるには「go-to person として十分な知識や経験を持つこと」そして「周囲から go-to person として認知されること」の2つが重要となる。これは時間のかかるプロセスであり、日頃から戦略的に立ち振る舞うことが大切だろう。