『認知バイアス ― 心に潜むふしぎな働き』の読書メモです。

表紙

読んだ動機・感想

  • 認知や認知におけるバイアスに興味があり、評判が良かった本書を読んでみました。
  • 自分が持つ意識的・無意識的な認知の歪みに対して言語化やラベル付けが行われることで、自分の中でそれらをうまく取り扱えるようになった気がします。
  • 参考文献の紹介が豊富で良かったです。読んでみたいものが多くありました。

読書メモ

認知とは心の働き全般を指す言葉で、認知バイアスは心の働きの偏りや歪みを指す。

第 1 章 注意と記憶のバイアス

  • 主に視覚や記憶に由来するバイアスについて。注意(ワーキングメモリ)と記憶(エピソード記憶)における認知バイアスの例と研究の紹介。視覚探索の特徴、後から来た情報を整合させるための記憶の無意識な書き換え、記憶のソースの欠如、など。
  • その他キーワード:チェンジ・ブラインドネス、サッケード、ポップアウト型の視覚探索(特徴探索)と結合探索、ソースモニタリングの失敗

第 2 章 リスク認知に潜むバイアス

  • 思いつきやすさや思い出しやすさで発生頻度を判断してしまう「利用可能性ヒューリスティクス」について。繰り返し出てくることや珍しい事象は記憶に残りやすく思い出しやすいため、発生頻度が高いと誤認する。前者は「リハーサル効果」と呼ばれる。
  • メディアの影響:珍しいことの集中的な報道 → リハーサル効果による記憶への定着 → 利用可能性ヒューリスティクスによる誤った頻度の推定。「図 2.5 メディアと利用可能性によって錯誤が生み出されるサイクル」が分かりやすかった。
  • その他キーワード:系列内位置効果

第 3 章 概念に潜むバイアス

  • 認知のカテゴリー形成方法の一つとして研究されているのがプロトタイプ(平均的な特徴の束)との類似度の比較によるもの。プロトタイプの形成には事例に出会うこと(サンプリング)が重要であり、サンプルに偏りや目立つもの(代表例)があるとそれに基づいた偏ったカテゴリー化が行われる。このような偏ったカテゴリーに基づいた認知を「代表性ヒューリスティクス」と呼ぶ。これがステレオタイプに繋がる。
  • 連言錯誤:属性 A, B に対して、それらの連言 (A and B) の確率の方を高く推定してしまう。
  • その他キーワード:事前確率の無視、説明容易性、心理学的本質主義

第 4 章 思考に潜むバイアス

  • 思考は「問題解決」「意思決定」「推論」に分けられる。本章では推論に潜む確証バイアスについて紹介。
  • 帰納推論・演繹推論における確証バイアス、因果関係の推論における確証バイアス、第一印象における確証バイアス、確証バイアスが生じる理由、など。
  • その他キーワード:予言の自己成就、ヘンペルのカラス、テストの診断力

第 5 章 自己決定というバイアス

  • 本章は「意思決定」に潜む認知バイアスについて紹介。無意識による決定を欲求や意図によって説明付けようとするために作話が行われる。自分の行動に影響を与えている情報に気づくことができない。
  • その他キーワード:素朴心理学

第 6 章 言語がもたらすバイアス

  • 言語による物事の抽象化、言語隠蔽効果(言語による記憶と思考の劣化)、言語能力の発達による写真的な記憶能力の隠蔽など。
  • 言語による表現は、世界を言葉で分解しそれらの関係をまた別の言葉で繋ぎ合わせることに相当する。それらが容易な対象でないと言語表現は難しくなる。
  • 状況モデル:文章の意味する状況を捉える認知モデル。これが筆者の意図する状況と合致すると理解できたと言える。文や用語が容易でも、状況モデルが適切に構築できないと理解ができない。

状況モデルの齟齬、プログラミングにおけるコミットディスクリプションや実装コメントなんかはこうなりがちな気がする。How はあるが Why がないため、コメントや処理が平易に書かれていても結局なぜそれが必要なのか読んでも分からない。読み手の状況モデルを意識しながら書くのが重要。

第 7 章 創造(について)のバイアス

  • 常識(対象制約や関係制約)によって創造が阻害される。多様性はこれに打ち勝つ方法の一つ。
  • ひらめきは無意識の学習によってもたらされる。
  • その他キーワード:分散推論

「創造やイノベーションというのはプランドハプンスタンスに近いなー」と思いながら読んでたら最後にパスツールの似たような言葉が引用されていた。

第 8 章 共同に関わるバイアス

  • 集団におけるバイアスについて。創発、同調、責任の分散、分業、共感、など。

第 9 章 「認知バイアス」というバイアス

  • 限られた資源・予期せぬ変化に対応するため認知が発達してきたという話、バイアスを利用した環境や政策のデザイン、など。
  • キーワード:二重課程理論、再認ヒューリスティクス、最良選択ヒューリスティクス、認知の文脈依存性、限定合理性

実験参加者が別の問題を解いている可能性というのは色々考えさせられた。すごく具体的な例だけど、他の人のコードをレビューしているときに自分が想定していたものとは全然違う処理が行われている場合、たいてい自分が気づいていなかったケースや問題を解いてたりするので、いきなり変更を促すんじゃなくてまずは相手の意図を聞くことを意識してる。