『日経サイエンス 2023 年 10 月号』を読みました。今号も面白い記事が多かったです。そのうち特に印象に残ったものについてメモしておきます。

表紙

「理解」はどう変わるか

科学は帰納推論によって発達してきた。人間が「理解」し扱えることには限界があるため、帰納推論において取り扱うモデルのサイズは小さくする必要がある。そこで「オッカムの剃刀」のような人間にとって都合の良い帰納バイアスを採用している。これが逆に人間の「理解」を超えた複雑なモデルの構成を妨げている。一方、機械学習におけるアンサンブル学習やパラメータ数の大規模化は「オッカムの剃刀」ではなく「エピクロスの多説明原理」に立脚しており、これが素晴らしい予測能力を実現している。高い予測能力を持ったモデルは、たとえ人間がそれを「理解」できないとしても、科学における「理解」の一つのあり方といえるのではないか。今後の科学は予測能力を持つがブラックボックスなモデルによって切り開かれ、その後に科学者が人間による「理解」を追求することになるのではないか、という話。

示唆に富んでいてとても興味深い記事でした。この世界のありとあらゆるものが人間に理解できるものだとは限らないわけで、それに無自覚な仮定が足枷になっているかもしれないというのは面白いなと思いました。この辺は以前読んだ『数学に魅せられて、科学を見失う』に通じるものがあると感じました。

脳は内から世界をつくる

脳は外部からの刺激によって構成されていく<外から内のアプローチ>ではなく、脳内の神経活動を外部の事象にマッチングさせていく<内から外のアプローチ>で説明できるのではないか、という話。うまく言語化できませんが<内から外のアプローチ>の方がしっくりくるように素人ながら感じました。

カロリー計算で見る人類の進化

狩猟採集の効率を単位時間あたりに獲得できたカロリー量で表現するのはなるほどと思った。人類は道具や文化の発達によって獲得カロリー量を多くできたため、余剰に獲得できた分を他のグループや次世代に回すことができ、それが繁栄に繋がったと考えられているらしい。