宇宙背景放射 ― 「ビッグバン以前」の痕跡を探る』の読書メモです。

読んだ動機

  • 天文宇宙検定の勉強中に出てきた「B モード偏光」について知りたかったから。

感想

  • 全体的に平易に書かれていてとても読みやすかった。
  • B モード偏光とは何なのか、それが観測できると何が分かるのかを何となく理解することができた。
  • B モード偏光以外にも、ビッグバンからインフレーションに至る研究動向を整理できて良かった。

読書メモ

  • 第一章「宇宙の「ルールブック」を求めて ― 素粒子実験から宇宙誕生の瞬間を撮る実験へ」
    • チリの観測施設における著者の研究風景、宇宙背景放射 (CMB)、理論家の仮説と実験家による観測、相対性理論と量子力学、CP 対称性の破れと加速器実験による検証、など。
    • 「宇宙の法則を観測的に解明していくさまはサッカーのルールを観測的に明らかにするのと同じ」という喩え話がとても分かりやすかった。
    • 相対性理論に基づいて GPS の時刻補正を行っているという話が面白かった。
  • 第二章「ビッグバンと CMB」
    • 筆者が加速器による素粒子の研究から CMB の研究へ切り替えた理由、宇宙項とハッブルの法則、宇宙膨張、定常宇宙論とビッグバン理論、CMB の発見経緯、COBE による CMB の等方性の観測、宇宙の晴れ上がり、対称性と保存則 (ネーターの定理)、など。
  • 第三章「「空っぽ」の空間」
    • 物質がない宇宙空間が膨張するとはどういうことなのか解説した章。
    • 空間自体が物理的実体を持つという理論、物質は膨張しない理由、真空中を電磁波が伝わる理由、空間膨張と CMB の関係、など。
    • 空間内外の観測視点に関する話や蜘蛛の巣を使った空間膨張の喩えが分かりやすい。
  • 第四章「インフレーション仮説」
    • 宇宙のどこから来る CMB も同じ性質を持つ理由と、それがインフレーション仮説にどう繋がるのか紹介する章。
    • 宇宙原理、地平線問題と因果関係、インフレーション仮説による地平線問題の解決、ド・ジッター宇宙、平坦性問題、インフレーション仮説による量子ゆらぎの予言と COBE 衛星によるその観測、など。
    • 「仮説を正しいと認めるには予言の実証が重要」という話がなるほどーと思った
  • 第五章「原始重力波と B モード偏光」
    • 原始重力波とそれがインフレーション仮説を裏付ける理由の解説。
    • 連星などによる重力波と原始重力波の違い、インフラトンによる量子ゆらぎ、空間の量子ゆらぎによる原始重力波の発生、CMB に残る原始重力波の痕跡、B モード偏光と E モード偏光、など。
    • 偏光のモードを解説した図 6 を理解するのに時間がかかった。矢印の十字が飛んできた CMB で、色々な方向に横波が発生してる様子を表している。それが電子にぶつかって観測者方向に飛来し、そのときに視線方向の擬似的?な縦波の部分がカットされて偏光を持つ、か。
  • 第六章「ポーラーベアの挑戦」
    • KEK での CMB 観測実験の開始、素粒子物理学の実験から転用できた技術、観測データの解析と観測者バイアスの排除方法、既存実験チームへの合流、観測装置の仕組みとターゲット、重力レンズによる B モード偏光、実験装置の工夫、など。
  • 第七章「戦国時代の B モード観測 ― ライバルとの競争、そしてライトバード衛星へ」
    • ライバルの動向と今後を紹介した章。
    • 重力レンズによる B モード偏光の観測、塵による前景放射、ライバルによる B モード検出発表とその取り下げの顛末、ライトバード衛星による宇宙空間での観測計画、量子重力理論の実験的検証、宇宙のルールブック探求のゴールなど。
    • 著者のこの言葉にシビレた。

“もしかしたら、この広い宇宙のどこかには、すでに究極の「ルールブック」を解明した知的生命体が存在するかもしれない――と。(中略)よその知的生命体に僕たち地球人がナメられないためにも、一日も早く自然界の根本法則を解き明かしたい。”